10000hit企画です。
雷様のせいでデータがふっとんだので、書き直していたのですが……
あれ?こんな話だったっけ?という感じになりました。
とりあえず肝心なシーン(笑)の前までをアップします。
同棲をはじめたルルライで初々しいのを書こうとしていたのですが、初々しいのはライだけです。
ルルーシュの初々しさはどこへ行ったのか……(遠い目)
なお、小噺の題名は仮題ということにしておいて下さい。
本当に題名つけるの、苦手なんです。orz
案内された部屋は彼らの地位からしてみれば質素といっていい部屋だった。
小さなリビング・ダイニングに、キッチン。バスルームは部屋の規模にしては広めだ。寝室はひとつで、ベッドがふたつ。
リビングにあるソファには色違いのクッションがふたつ。ベッドカバーや枕も色違いでお揃いだ。
アッシュフォードのルルーシュやライの部屋よりは充分広いが、ふたりで生活するには広すぎるというわけではない。
――どこの新婚家庭だ?
ゼロは思わずうなったが、彼の隣にいるライは新しい部屋に興味津々の様子であちらこちらを見回している。
クローゼットを開けて、制服が並んでいるのを見つけるとライは楽しそうに振り返った。
「こんなにたくさんあるのは初めて見た」
「……まあ、そうだろうな」
ずらりと並ぶ黒の騎士団の制服に、ゼロは仮面の下で頬を引きつらせた。
着替えも用意してほしいなどと言わなければよかったと、後悔する。
ライはほとんど自分の服装に頓着しない。よほどおかしな格好でなければ、与えられた服を抵抗なく着てしまう。
多分ライにとっては365日、毎日騎士団の制服でもかまわないのだろう。だが、見ているこっちは暑苦しいしそっけない。
「どうだろうか?」
ふたりの後姿を見守っていた扇が、恐る恐ると尋ねる。この部屋を手配したのは彼だった。
事の起こりは、カレンがぐったりと疲れ切っているゼロとライを見つけたことだ。
会議室で机の上に突っ伏して寝ていたのだ。ライはまだしも、ゼロにいたっては仮面をつけたままだったので相当寝苦しそうだった。
結局、カレンの気配に起きたライがゼロを起こし、二人でトウキョウ租界に帰っていったのだが……黒の騎士団の――今ではそれどころか、「行政特区・日本」の要である二人がこの調子では拙いだろう。
カレンは慌てて扇に相談した。
とりあえず、睡眠時間だけは確保しなければならないという話になった。具体的には、トウキョウ租界に戻る時間が勿体無いというわけで、「日本」に住めばいいではないかという提案がゼロにされたのだ。
ゼロは当初かなり渋った。
なにしろトウキョウ租界には彼の最愛の妹がいるのだ。彼女と離れて暮らすなど、ゼロには考えられないことだったのだ。
そのゼロを説得したのは、補佐官であるライだ。
「期間限定だ。ちょっと長い旅行だと思えばいいだろう?」
「必要を感じない」
「昨日だって気絶するように寝てたくせに」
「まだ動ける」
「動けるという状態と、正常の判断が下せる状態は違うと思うが?」
「……ライ、お前」
「心配なんだよ、君が」
囁くように言われた一言に、ゼロが折れた。見事な手並みである。
後に「ゼロ使い」と呼ばれ、ゼロに何らかの提案をする場合は必ずライを経由せよと、行政特区に御達しが出ることになるだろう。などと、本気で扇は考えた。
ゼロを全面的にサポートする立場にいる扇やカレンとしては、万々歳の結果だった。
すぐさまマンスリーマンションを手配する。急激に成長している行政特区において、この手の建物は引く手数多だ。
なかでもセキュリティー面に秀でた建物を選出し、二人ですむのに不自由ない部屋を選りすぐったのだ。
扇の頭の中では、ゼロとライを引き離すなどということは考えも付かないこととなった。冷静沈着だが案外向こう見ずなところがある彼らのリーダーを、諌めれるのはライしかいない。
ゼロは扇を振り返り、小さく溜息をついた。その吐息を聞いて、扇は背筋を思い切り伸ばす。
はっきり言おう。――怖い。
何を言われるのか。叱責か嘆きか、侮蔑か。次に来る言葉に身を構えて、扇は固まってしまった。
その様子を見て、ゼロは苦笑する。
「ご苦労だったな、扇」
「え?あ、――は、はい!」
すんなりと言われた労いの言葉に、扇は驚いた。
そして言葉を理解すると同時に、じわじわと喜びが湧き上がってくる。平凡すぎるほど平凡な扇を取り立てて、認めてくれたゼロに少しでも報いたいと思っていたから余計だ。
「そ、それでは失礼します!」
硬い声で挨拶すると、扇はすばやく部屋を後にした。
褒められるのは嬉しい。労いの言葉をかけてもらえるのだって嬉しい。けれど、緊張しないではいられない独特の威圧感がゼロにはあり、どうしてもそれが苦手だったのだ。
なるべくなら、仕事以外でその重圧に耐えたくはない。
扇が足早に部屋を去ると、ライとゼロだけが残された。
ゼロは小さく溜息をついて、仮面をとる。押さえられて肌に張り付いた髪をかき上げながらライを見つめた。いまだにライはあちらこちらを探索している。
二人で暮らすには不自由ない部屋だ。
というか、二人で暮らすことを前提に設計された部屋だった。
それはすなわち、まだ子どものいない夫婦や同棲とはじめた恋人を想定した間取りということだ。なにしろ、寝室はひとつでベッドはふたつ。ベッドの距離は限りなく近い。
――なぜ、ライはこの状況を不思議に思わないのか?ルルーシュは首をかしげた。
ゼロとライの表面的な関係は至極単純で、すなわち「上司と部下」という一本線だ。実際は、「クラスメイト」「生徒会の仲間」「友人」そして、「恋人」という何本かの関係線がつながれるのだが……少なくとも扇が知っているのは「上司と部下」の関係でしかない。
――それなのに、この部屋。しかもクローゼットに入ってるのは黒の騎士団の制服ばかり。
もちろん、私服も多少持ってきている。が、黒い制服がつまったクローゼットに置き場はない。
食器などは一通りそろっているようだが、すべてがペアーデザインというのが気に入らない。
いや、正確には気に入らないのではなく、気恥ずかしいという表現のほうが正しいだろう。色合いが青とピンクなどという定番でなかっただけマシだろう。
ルルーシュはとりあえずマントも脱ぎ捨て、首元を緩めた。
それから紅茶でも入れようかとキッチンに立つ。システムキッチンは非常に使いやすそうだ。ルルーシュは満足げに頷いて、薬缶とポットを探し出した。
フライパンや鍋なども一通りそろっている。調味料も基本的なものは買い揃えられていた。食材も冷蔵庫に詰められていた。些か多いほどだ。
妙に細かなところにまで気が利く扇に感心しつつ、ルルーシュは湯を沸かす。
「いろいろ揃っているみたいだよ、ルルーシュ」
「そのようだな。備え付けではないから、扇が気を利かせてくれたんだろう」
「そうみたいだ。でも、揃っているものに妙に可愛らしいものがあるんだけど、なぜだろう?」
ライが首を傾げるのを見ながら、ルルーシュも「さあ?」としか答えられなかった。
多分、物をそろえる際に女性にアドバイスをもらったのではないか、と予測は立つのだが……黒の騎士団にいる女性の趣味ではないようにも思える。
カレンはもう少しスポーティなものを好みそうだ。では、井上あたりの趣味なのだろうか?
「とりあえず、使えそうなものばかりだし、ありがたく使わせてもらおう」
「……そうだな」
勿体無いから使おう。たとえ色違いのマグやタオルが気恥ずかしくとも、少なくともここに客さえ招かなければルルーシュとライ以外が見るわけではない。
そう腹をくくってルルーシュは頷いた。
なにより、ライが楽しそうなのだ。珍しいくらい喜色満面の笑顔を見せられてしまえば、文句など途端に萎んでしまう。
「まず、お茶にしよう。少し休憩したら荷解きをするぞ」
「わかった」
ライが頷いて、ダイニング・キッチンにやってくる。
相変わらず物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回している様子は、幼い印象を受ける。もしくは、初めての場所に来た猫だろうか。
思わず微笑みながら給仕すれば、ライはにこりと笑った。
「ありがとう」
「どういたしまして。休みは今日しか取れなかったからな。今日中に荷解きしないとな」
そういうと、ライは小さく笑った。
「今日の休みを取るための努力を思うと、荷解きだけに使うのは勿体無いような気がするよ」
「ライ、荷解きを甘く見るな。何をどこにおくかは非常に重要だ」
「そうなのか?」
「当然だ」
ルルーシュが深々と頷くと、ライは神妙な面持ちで「分かった」と返した。
何しろライにとって簡易的なものとはいえ、引越しははじめてのことだ。遠い過去にさかのぼれば、住居が母親の離宮から王宮に変わったことはあったが、自分の荷物を持って移動することはしたことがない。
初めての体験を、ライはそれなりに楽しんでいた。
ルルーシュの指揮の元に荷解きをする。
もともときっちりと整理をしていた荷物は、面白いぐらい綺麗にそれぞれの収納場所に収まった。
さすが整理整頓の鬼とC.C.に称されるだけある。
持ち込んだ書類や資料の整理も済ませると、空はすっかり茜色に染まっていた。
とりあえず、生活するのに苦がない程度には片付いたので、食事の準備をすることにする。
二人で協力して――というより、ルルーシュが作るのをライが手伝うという形で、夕食を作り上げた。
メニューは肉じゃがとほうれん草のおひたし、かぼちゃの煮つけにだし巻き卵、そして豆腐とわかめの味噌汁。完全な日本食なのには、ちゃんと理由がある。
用意されていた調味料が日本食しか想定していないようだったのだ。
味噌や醤油、日本酒やみりん、乾物などはかなり揃っているのだが、ヴァージンオイルや各種の乾燥ハーブ、ワインヴィネガーなどは一切ない。
どうやら扇は「自分が住むなら何がいるか」という想像の元に、部屋を準備したらしい。ゼロやライがブリタニア人であることをすっかり忘れて。
ライが思いの外日本食を気に入ったようだからよかったが、そうでなければルルーシュは扇に嫌味の一つや二つも言いたいところだった。
「とても美味しい」
ライがそう言ってにこりと笑う。ルルーシュも微笑んだ。
ナナリーもそうだが、ライの笑顔も伝染力がある。見れば思わず微笑み返してしまうのだ。
「それはよかった」
「甘辛い、というかな?こういう味付けは珍しいね」
「日本ではポピュラーな味付けみたいだぞ。テリヤキとか……」
「テリヤキ?」
聞きなれない言葉の響きに、ライは首をかしげた。
気を抜くとまだ使い慣れない箸から、ぽろりとジャガイモが落ちてしまう。慌ててご飯茶碗で受け止めてから、思いついて大きく頷いた。
「C.C.が食べていたピザにそんな味付けの表示があった。ピザも日本では甘辛くするんだな」
「……あいつ、何枚食べてるんだ?」
ぐったりと疲れた口調で言うルルーシュに、ライは小さく笑った。
ことこの件に関しては、ルルーシュはC.C.のスポンサーというより被害者だ。言っても聞かない緑の少女の性格を知っているので、どうにもコメントしにくい。
「ピザはチーズの油っぽさであまり食べられないから――僕はこちらのほうが好きだな」
「こちらのほうが経済的だし健康的だからな。ピザばかりなど、栄養バランスが悪すぎる。栄養素などほとんど炭水化物と脂質ぐらいしかないじゃないか。しかも宅配ピザは宅配料を計算した料金設定だから高い。あいつにもそのあたりのことをきちんと理解させなければ!」
語気強くルルーシュは言う。行儀悪く箸をかぼちゃに刺してしまうあたり、本気で苛立っているようだ。
だが、非経済的だという話はとにかく、栄養素についてはどう考えてもC.C.を心配しているようにしか思えない。相変わらず変なところで甘いのだ。
ライは嬉しそうに笑うと、ジャガイモを租借する。
ほっこりとした優しい味がする。食べたことのない料理のはずなのに、どこか懐かしい。
「ルルーシュはいいお父さんになるだろうなあ」
「……どういう意味だ?」
心の底からの感想だったのだが、ルルーシュには不満だったらしい。
急に低くなった声にライは驚いた。
睨み付けられる視線の理由すら分からず、困惑したライは居心地悪そうに身じろぎする。
「そのままの意味だけど……本当は『お母さん』という感じだが、君は男だし」
「真面目に答えるな。というか、そんなことを聞きたいんじゃない」
ルルーシュは大きな溜息をついて、空になった皿や茶碗をまとめる。
不機嫌とうより、呆れ果てたというような態度にライは体を縮みこませた。
「まあ、お前に他意がないのは分かっているがな。でも、この年でいい親になるといわれても嬉しくない」
「……僕の時代だと、この年で結婚子持ちは珍しくなかったんだけど?」
「この時代では珍しいだろうな。男性の婚期は30代ぐらいだといわれている」
「そうか。それは悪かった」
ライが謝れば、ルルーシュは許すと言う代わりに小さく苦笑した。
それから、不意に意地の悪い笑顔を浮かべる。「ライ」と呼びかけられて、ドキリとした。嫌な予感がするのに、惹きつけられて目が離せない笑みなのだ。
「それにお前は、俺が父親になってもいいのか?」
「……?」
言われた言葉の真意が分からず、ライは首を傾げる。
その様子にさらに笑みを深めたルルーシュは、意図的に声音を変えた。
――低く、甘く。それは夜のひとときを思わせる声で。
「俺が父親になるということは、お前以外の人間を愛するということだろう?」
ライが驚いて目を見開く。
その青の瞳を覗き込むように見つめたまま、ルルーシュは囁いた。
「それでいいのか?」
to be continued.