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このブログは、9割以上が妄想で構成されています。アニメ・ゲームへの偏愛が主な成分です。
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R2沿い連載第二話目です!
……まだプロローグですが。orz

今回はルルーシュsideのお話です。前回の話より、時間系列的には少し後になります。
まだほとんどストーリーが動いていませんので、サラリと読んでいただければ幸いです。

なお、倉庫サイトに「アンリマユ」の設定をUPしました。
ブログ内での設定と多少変わってきておりますので、気が向いたら見てやってください。

+ + + + + + + + + +


夢を見ていた。

すぐ傍に少女が居る。
顔は分からないのに、その少女が微笑んでいることが分かった。

「できました」

嬉しそうに少女がいい、俺に手を差し伸べる。その小さな手の上には鳥のようなものが乗っていた。淡いピンクの紙で作られたそれは、少女の手の上でゆらゆらと揺れている。

「上手に出来たね」

自分でも驚くほど優しい声で、俺はそう言っていた。
少女が小さく嬉しそうに笑う。
器用なものだと、俺は感心して紙の鳥を手に取り見つめた。背の部分が膨らんで、自立できるようになっている。

「俺には作れそうにないな」
「そんなことありませんよ。――さんが先生になってくださいますから」

名前が聞き取れなかった。
それなのに、俺には誰のことだかちゃんと分かった。分かったのに、理解した端から忘れていく。

「あいつも折れるのか」

忘れていく記憶の中、微かにひっかかった銀色だけを大事に握りしめて、俺はそんなことを呟いた。
少女がこくりと頷く。その喜色を含んだ仕草がとても可愛らしくて、俺は小さく微笑んだ。

「前に桜も作ってくださったんですよ!」
「……サクラ?ああ、花の桜か」
「はい。これくらいの……ちゃんと花びらの部分が、桜の花びらの形をしているんです」

少女が両手で指し示した大きさは、決して大きいものではない。
花びらまで正確に桜を模していると言うことは、つるりとした楕円の花びらではなく、切れ込みが入っているのだろう。折り目だけでその切れ込みまで表現するとは。

「器用だな」
「そんなことはない」

俺の呟きは隣からした声に否定された。かなり近い距離なのに、俺は全く彼に気づいていなかった。
驚いた。けれども、決して不快ではなかった。
「――さん!」と少女が相手の名前を呼ぶ。俺はまた忘れる。

「僕はルルーシュみたいに、あんないくつも複雑な工程がある料理なんて作れないよ」

だから、器用なのは君の方だ。そう言って、彼は笑っていた。
それが分かるのに、また俺には彼の顔が見えない。

いや、そんなことより……そう、そんなことより。俺は彼の名前を呼びたい。
呼びかけて、振り向かせて、どうしてだと尋ねたかった。それなのに、何を尋ねたいのか思い出せない。
それどころか、声がだせなくなっていた。

――ああ、どうして。
名前が思い出せない。どうしても、思い出せない。
分かるのは、とても懐かしいと思うこと。大切だと思う。
目の前の少女とは違う意味で、とても大切だと――愛しいと感じるのに、俺は彼を思い出せない。

足りない。
焦燥感だけが降り積もり、苛立ちを覚える。

誰なんだ?何なんだ?どうして、俺は思い出せないんだ?
問いかけたかったのに、喉は張りついたように何も――空気すら通さない。苦しい
地上で溺れることがあるとするのなら、まさしくこういうことなのだろう。

もどかしさと苦しさで、俺は必死に手を伸ばした。彼の腕をとり、引き寄せる。
もっと近くで顔を見れば……もっと近くで。そうすれば。
身長差はそれほどない。俺の方がわずかに高いだろう。
驚いたのか、彼の身体はいとも簡単に俺の腕の中に収まった。顔が近づく。それでも分からない。
近づいた顔がほぼゼロ距離になり、そのまま通り過ぎて、俺の肩にぶつかる。

頬に、彼の髪が触れる。
銀色だ。
それに触れただけで――何故か俺は満足していた。

言葉もなく、ただ抱きしめる。
細い身体。けれど、しなやかな感触。柔らかくはないけれど、ずいぶんと抱き心地がよかった。

彼は驚いたように一度身体を硬くしたが、やがて力を抜いた。
そして、そっと俺の背中に手を回す。
少しだけ低い体温が服越しに伝わってきて、俺は安堵のため息をついた。

ああ、もう大丈夫だ。

直感的にそう思った。
腕の中に彼が居て、隣には少女が居る。
大丈夫。俺は何も失っていない。

銀色の髪に顔を埋める。少しだけ甘いような、不思議な匂いがした。
彼がくすぐったそうに笑う。
少女が口元を綻ばせて、それからにっこりと笑った。

――幸せな、夢だった。





「兄さん」

呼ばれて目が覚めた。
目を開くと、朝の白い光に視界が焼かれる。何度か瞬きをして目を慣らすと、ロロが心配そうにのぞき込んでいた。

「――ロロ」
「大丈夫?起きてこないからどうかしたのかと思って……」

体調が悪いなら起こさない方がよかったかな?と、眉を寄せた表情に、思わず微笑んだ。
気にしなくていいと言うかわりに、柔らかな髪をくしゃくしゃと少しだけ乱暴に撫でる。
慌てるロロの表情は少し幼い。

「おはよう、ロロ。起こしてくれてありがとう」

にこりと微笑むと、ロロもはにかむように笑った。

「この時間には起きるって言ってたから……」
「ああ、明日から始業だからな」

考えるだけで少しだけ気が重くなる。
急遽の休校が明日で解除されるのだが、ほとんどの生徒・教師が入れ替わってしまったのだ。
おかげでカリキュラムも大幅に変更されることとなった。教科書も新しくなる。

ブラック・リベリオンと呼ばれる紛争からはや1ヶ月がたとうとしている。
トウキョウ租界はかなりのダメージを受けた。建物は勿論だが、なにより深刻だったのはマンパワーへの影響だ。

黒の騎士団を名乗るテロリストの大多数は捕まった。特に総帥を名乗っていたゼロは、軍によって殺害されている。
それでも、実際に戦闘を見た人々にとって、恐怖は拭えない。今までごく当たり前に暮らしてきたブリタニア人にとって、ビルが壊され人が死にゆく様を目の前で見せつけられたのだ。
そのストレスに耐えられず、多くの人は本国へ帰っていった。
しかし、実際に街は壊れており復興をしなければならない。需要が生まれている以上、供給を行わないわけにもいかず、本国から人が入ってくるということになる。
つまり、エリア11にいるブリタニア人のほとんどがそっくり入れ替わることになったのだ。
おかげで、建物の被害はそれほど大きくなかったアッシュフォード学園も休校せざるを得なくなった。

俺たち兄弟も一時的でも帰ろうとしたのだが、結局取りやめ、ここに残ることにした。
俺たちが本国に帰るという選択をしなかったのは、偏にアッシュフォードに縁があるからだ。

本国にいる両親は、よく言えば放任主義、悪く言えば育児放棄というほど、俺たちに構わない人たちだった。
俺は物心ついたころには、すでに家事をし始めていた。そうしなければ、食事にありつけなかったからだ。
勿論、学費や食費などの必要なお金はくれる。会えば声をかけるし、必要最低限のことはしてくれていたのだろう。けれど、俺にとって――ロロにとって、それは「必要十分」な愛情ではなかった。
だから、俺はあの両親をそれほど好いてはいない。
できることならば、とっとと独立してしまいたいと思う。

そんな俺を支えてくれたのが、母の知り合いのアッシュフォード家だった。
母の奔放さを知っているからこそ、俺たちの苦労を察してくれたのだろう。エリア11に移り住んでからというもの、影ながら支援してくれている。

このクラブハウスもそのひとつだった。
アッシュフォード学園には寮もある。
だが、家庭の事情が複雑なあまり人見知りが激しいロロを慮って、俺は自宅生として登録しようとした。部屋はどこかで借りればいい。ロロが慣れない寮生活のストレスで、さらに人見知りになるよりは……と思ったのだ。
――多少、甘すぎるかもしれないが、その時の俺は本気でそう考えていた。
学園側にそう申請を出すと、アッシュフォード側から提案があったのだ。クラブハウスの使われていない棟を管理するという条件で、住み込みを許可するが、どうだろうか、と。
本当にありがたい申し出だった。
部屋を借りる資金は、自力で稼ぎ出さなければと思っていたから余計だ。
以来、俺たちは学園内に住まわせて貰っている。

勿論、それ故に他の生徒よりも負担があることもある。
例えば、今日だ。
始業式の準備に俺たち兄弟は駆り出されていた。
しかし、休日を一日つぶされるくらいが何だというのだ。それで家賃分のお金が浮くのだ。安いものではないか。
――それが、どこかの会長のせいで、とんでもない始業式になろうと、とんでもない仕事量になろうと!
ああ、考えると頭痛がしてくる。

「でも、珍しいね。兄さんが寝坊するなんて」

のそりとベッドから出た俺に、ロロが小さく笑って言う。
もともと朝は弱いのだが、ロロにそんな姿を見せたことはない。きちんと目覚ましをかけ、予定の時間にはきっちりと目を覚ましているのが常だったから、当然だ。

「ああ……夢を、見ていたよ」
「夢?」

ロロの声が少しだけ低くなったような気がした。不思議に思って振り向けば、小さく首を傾げたいつものロロだ。
勘違いだったのだろうと思い直しつつ、俺は夢のことを思い出そうとする。
すでに記憶は曖昧で、何の夢だったのかも思い出せない。夢とは大抵そんなものだが、何故か妙に気になった。

思い出せるのは、ぼんやりとした記憶だけ。
溢れてくる愛しさと、ピンク。
切ないほどの渇望と、銀色。
――そして、幸福な気持ち。

どうしてもそれ以上は思い出せず、俺は肩をすくめた。

「思い出せない。幸せな夢だったのは間違いないんだが……まあ、俺が幸せだと思うんだ。きっとお前が出てきた夢だよ」
「……そ、そうかな?」
「そうだろう。だって、それ以外に考えられない」

ふわふわの癖毛を撫でてやれば、ロロはくすぐったそうに首をすくめた。
こうしてロロが笑っていてくれれば、俺は幸せだと思う。

「さて。着替えてから食事だな。その後は始業式に準備に行かなければ」
「でも、始業式の準備って何すればいいんだろうね?」
「さあな。ごく普通の始業式なら、壇上を飾り付けるとか、賓客席を準備するとかそんなことだろうけど……」

思わずため息が出た。

「あの会長が関わったら、そんなことで済むとは思えないな」

よほど疲れた顔をしていたのだろう。
ロロは思わずといった具合に苦笑を浮かべて、「頑張ろうね」と囁いた。





とりあえず身支度を済ませてから、キッチンに立つ。
食事を作るのは俺の係だ。昔から作っていたから苦ではないし、むしろ好きな部類に入るだろう。
代わりに洗濯はロロの係。掃除や後片付けはふたりで分担しているのだ。

冷蔵庫や常備野菜をざっと確認して、メニューを構成する。
使いかけのカボチャに同じく封が開いている生クリーム。キャベツと玉ねぎはそのまま、にんじんは半分。トマトが一個。ベーコンと卵。
トーストとベーコンエッグ、それからカボチャのスープにコールスローというところか。
メニュー構成が済めば、今度は作業工程を瞬間的にはじき出す。

まずはカボチャだ。
すでに4分の1ぐらいになっているカボチャを一口大に切る。当然皮は取る。それから皿に並べてラップをかけ、電子レンジに放り込む。
その間にキャベツと玉ねぎ、にんじんを粗めの千切りにする。リズミカルになる包丁を動かせば、千切りは簡単だ。
千切りになった野菜はボウルに入れて、塩をまぶしてかき混ぜておく。

ミトンをはめて、レンジからカボチャを取り出す。フォークを刺してみると、ほどよい柔らかさだ。
ミキサーにカボチャと牛乳、それからコンソメを投入しスイッチを入れる。あっという間にカボチャ色の液体ができあがる。が、まだコクがいまいち足りない。
こし器を通して鍋に注ぎ入れて、生クリームを混ぜる。塩・こしょうを加えて味を調え、さらに混ぜる。
もう少し熱くなったらこのままでも十分だが、まだ肌寒いこの時期はホットだろう。沸騰しないようにとろ火にかけえおく。

千切り野菜をさっと水洗いして、手作りのフレンチドレッシングであえる。
油を控えめにしたこのフレンチドレッシングはロロのお気に入りだ。
ふたつに分けて、器に盛りつける。このままでは彩りがいまいちなので、トマトを切り分けて添えれば一品完成だ。

さらにフライパンで厚めに切ったベーコンを焼く。
びちぴちと油が跳ねるようになったら、卵を割り入れる。じゅわっといい音がした。

「兄さん、干せたよ」

洗濯かごをまだ抱えたまま、ロロがひょっこり顔を見せる。

「ああ、ありがとう。もうすぐ出来るから待っててくれ」
「手伝おうか?」

くんくんと料理を匂いを嗅ぐロロに、思わず笑みがこぼれる。最近は落ち着いて随分と大人びたと思っていたが、そんな顔をすると途端に幼く見えるのだ。
まさしく可愛いという表現が似合うだろう。最も、そんなことを言えば拗ねてしまうのは目に見えているから、言わないのだけれど。

「それじゃあ、飲み物を用意してくれるか?」
「分かった!」

大きく頷いたロロが、パタパタと動き出す。その音に思わず目を細めた。
だが、のんびりとばかりはしていられない。フライパンに少量の水を入れて蓋をする。火の強さも調節して、半ば蒸し焼きのように卵を焼くのだ。
さらに片方では、カボチャスープを焦げ付かないようにかき回す。木べらにとろりと付いたカボチャスープを指ですくってひと舐め。我ながらいい出来だ。

戻ってきたロロが冷蔵庫からオレンジジュースを取り出す。当然100%果汁だ。それ以外はオレンジジュースと認めない。
氷が浮かんだジュースのコップがふたつ、机に並ぶ。
トースターからパンが焼ける匂いが漂ってきて、俺はスープを器に注いだ。黄金色のスープの真ん中に、乾燥させたパセリを乗せる。色のコントラストが目に鮮やかだ。

ロロに持っていくように頼むと、慎重な手つきでスープ皿を取った。
そのままそろそろと歩く姿は、どことなくペンギンに似ている。すり足になっていて、転ばないかと逆にハラハラしてしまった。

フライパンの蓋を開けると、つやつやとしたベーコンエッグが完成している。
ベーコンで塩分は十分だから、ブラックペッパーを香り付けに振った。じわりとにじみ出た肉汁も残さないように掬い上げ、皿に盛りつける。その頃にはトースターがトーストを吐き出していた。
サラダに卵も食卓に並べ、トーストにはたっぷりのバターを塗りつける。これで今日の朝食は完成だ。

ロロと二人、食卓につくと手を合わせて「いただきます」を言う。
これはエリア11の習慣らしいが、なかなかいい物だと思う。物を食べると言うことは、そのものの命を貰うというころだ。
誰に教えられたのかはもう覚えていないが、このエリア11に来てからというもの、俺たち兄弟にとっても習慣になっている。

じわりとバターが染みこんだトーストに、イチゴのジャムを乗せる。
少し痛み始めていたイチゴをジャムにしたのだが、市販されている物よりも砂糖を控えめにしているし、当然防腐剤など入っていないから、早めに食べきらなければいけない。

「美味しいよ、兄さん」

スープを飲んだロロが顔を綻ばせて言う。
味には自信があるが、それでもロロにそう言われれば嬉しいに決まっているのだ。思わず笑みが浮かぶ。

「そうか、たくさん食べてくれ」
「うん。サラダも……このドレッシング好きなんだ」
「ロロはさっぱりした味付けの方が好きだからな」
「でも、このスープは美味しい。カボチャの甘い感じがする」
「気に入ったか?」
「勿論」

それならばこのスープは定番メニュー入り決定だ。簡単だし、栄養もある。朝にはぴったりだな。
そんなことを考えながら、ゆったりとした朝食は進む。
他愛もない話をしながら――主に、生徒会メンバーの話になるのは、共通の話題で話に事欠かないからだ――食べていると、電話が鳴った。

「あ」
「いやいいよ。俺が出る」

動こうとしたロロを制して電話を取ると、ハイテンションな挨拶が耳をつんざいた。

『おっはよー!元気かにゃ?』
「……おはようございます、会長」

まあ、予想の範囲内の人物だ。
ため息は内心に留めておいて挨拶を返すと、会長はくすくすと笑った。

『声が疲れ切ってるぞ!元気を出して行こう!』
「つい十数秒前までは元気でしたよ。誰かさんに吸い取られてしまっただけで」
『あら?じゃあ、私の美貌はそうして保たれているのね!ほほほ』
「……これ以上化け物じみてくると、誰も生徒会室に寄りつかなくなりますよ」

そういうと会長は「失礼ね!」と怒った後に、少しだけ申し訳なさそうな声で切り出した。

『……それは大丈夫そうよ。今度から生徒会役員が増えそうだし、ね』
「は?ロロの事ですか?」
『いいえ』

少しのためらいがあった。
会長は頭のいい人だ。そして決断力もある。その会長がこんなにも言いづらそうにする言葉の予想がつかなくて、俺は首を傾げた。

「どうかしたんですか?」
『うーん、どうかしたっていうほどじゃないのよ。転入生が増えたの』
「どれくらいですか?」

明日の始業式を思って、思わず青ざめた。
人数が多ければ、明日の準備はさらに大変なものになるだろう。

『一人』
「……驚かせないでくださいよ」

思わず声が低くなった。

『その一人が大問題なのよ』
「……はあ」
『だ・か・ら!ルルちゃんにお願い!』
「――切っていいですか?」

本当に受話器を下ろそうとしかけたが、会長の嘆願を受けて渋々耳元に戻す。
ロロに視線を向ければ、食事を続けるのも忘れてじっとこちらを見ている。「大丈夫だよ」という意味で合図すれば、ロロはぎこちない笑みを浮かべた。

『結構上の方の貴族からの推薦でね。事情持ちみたいなのよ』
「そうですか」

気のない返事に、会長からの注意が飛ぶ。

『それでね、一人部屋じゃないと駄目って条件なのよ』
「まあ、事情があるのなら仕方ないのでは?寮にも一人部屋が――」
『ないの』

あるのだから、と続けようとした言葉を遮られる。
思わず情けない声が出た。
意味が分からない。基本的に寮は二人部屋なのだが、寮長や各委員長など、役職についている人間は一人部屋が用意される。生徒の自主性を重んじている学園は、生徒が自治権を有していると言っても過言ではない。故に役職がある生徒は他の生徒と生活リズムが全く異なるので、一人部屋が与えられるのだ。
役職数ぴったりの一人部屋があるわけではなく、多少の余裕があるはずだ。
――はずなのに。

『生徒数が以前と比べて少し増えてるのよ。一人部屋はいっぱい。つまり、受け入れなきゃいけないのに、受け入れる場所がないってわけ』
「――つまり、クラブハウスの俺たちが使っている棟の空き部屋を提供しろ、ということですね?」
『ルルーシュって話が早くて助かるわぁ』

ため息をついた。
本当ならば嫌だと言いたい。人見知りするわけではないが、出来ることなら知らない他人を自分の生活テリトリーに入れたくないと思うのは当然の事だと思う。
勿論、寮生活している生徒たちにとってはそれは我儘だろう。
――仕方のないことだ。このクラブハウスを使わせてもらえるのも、すべてアッシュフォードの厚意なのだから。

「分かりました」

諦めとともに吐き出した言葉は、自分で思うより拗ねたような響きを宿していたらしい。
電話の向こうで会長が苦笑したのが分かった。

『悪いね』
「まあ、仕方ありませんよ。その生徒はいつ頃来るんですか?」
『もう来てるわ。いま、お祖父様と話してるとこ。何しろ急な事だったのよ。編入試験も特別に行ったくらい。めちゃくちゃ成績良かったらしいわよ。それから、出来れば挨拶しに来て欲しいんだけど……』
「――始業式の準備はいいんですか?」
『うー、良くないけど、背に腹は代えられない!今回は普通の始業式にするから、実行委員だけでなんとかなるんじゃないかな?』
「僥倖ですね。分かりました。食事が済んだら行きますよ」
『ありがとう!生徒会室でヨロシク!』
「はいはい」

受話器を置くと、何故かロロが訝しげで――何よりも不機嫌そうな顔をしていた。
話が漏れ聞こえたのかと、思わず肩をすくめる。

「聞こえていたか?」
「うん……転入生って、誰?」
「さあ、名前までは聞かなかった。けれど、貴族様みたいだよ」

貴族階級をそれほど良く思っていないから、思わず辛口になる。勿論、貴族だからと言って全ての人間が嫌な奴だとは思わないが、嫌悪されて当然という人間の割合が高すぎるのは事実だ。
ロロは優しいから、それほど身分で人を嫌ったりはしない。が、やはり思うところはあるのだろう、表情が曇る。

「食事が済んだら挨拶をして、それから連れて来ることになると思う。一緒に行くか?」
「……止めておく」

人見知りをするロロはやはりあまりいい気はしないのだろう。
珍しくきっぱりと拒否してから、言い訳のように「後片付けもしなきゃいけないし」と呟いた。
手を伸ばして軽く頭を撫でる。ロロは驚いたように目を見開いて、それからはにかんで笑った。

「大丈夫だよ。きっと仲良くできると思う」
「そうか……うん、いい奴が来るといいな」

そう言って、俺はサラダの最後の一口を口に入れた。






生徒会室に入ると、既に会長も件の転校生もいた。
穏やかに会長と話しているのは、銀色の少年だった。「あれ?」と思ったのは一瞬だけで、どうして何かが引っかかったのかすら分からず、俺は内心で首を傾げた。

「あ、ルルーシュ。来たわね」
「おはようございます、会長」

厭味なほどにこやかに挨拶すれば、会長はわずかに顔を顰めた。だが文句を言うことはなく、隣の少年を見やる。
少年はきょとんとした――どこか驚いたような表情で、こちらを見ていた。

「紹介するわね。彼が転入生の――」
「ライ・ヴィフォードです。よろしくお願いします」

同年代の少年にしてはわずかに高い、涼やかな声だった。
その声を聞いた途端、息が止まった。それでもそれはほんのわずかな時間だけで、はやりすぐさま忘れてしまう。何が、琴線に触れたのかすら分からないまま、心が揺さぶられる。

「はじめまして。ルルーシュ・ランペルージです」

握手をした右手が、ほんのりと熱い。
ああ、何故だろう。何故か、泣きたいと思った。だが、思った端から感情が薄れていく。気持ち悪い。確かにつかめていた物が、霞となって消えていく感覚。

「ライはルルーシュと同じクラスになるからね。学校でも仲良くするよーに!」
「はいはい」

おざなりに返事をしながらも、ライを観察する。
背は俺よりもほんのわずかに低いくらい。細身だが痩せすぎというほどでもなく、しなやかな印象だ。
何より目を引くのは銀色の髪。それから、青の瞳。

じっと見つめていたのがばれたのか、ライが照れくさそうに笑った。
――珍しい。そう思って、その感覚に違和感を覚える。何が「珍しい」のか。どうして「珍しい」などと感じたのか。

「それじゃあ、ライ」

声に出して名前を呼ぶと、心が波立つ。歓びなのか苛立ちなのか、それすらも分からないほどのわずかなざわめき。
それを一切無視して、俺はにこやかに笑って見せた。これから同居人になる奴だ。出来れば良好な関係を持ちたい。

「クラブハウスに案内する。荷物とかは……?」
「もう少しすると届くはずなんだ」
「そうか、では後で手伝う」
「ありがとう、ルルーシュ」

その微笑みは、どこか郷愁を内包しているように思えた。






アンリマユの幸せ プロローグ02
    (黒の王は未だ微睡みの中で)

 

********************

ライがアッシュフォードに転入してきました。
……それだけの話なのに、どうしてこんなに長くなるのか。orz
思いの外、ロロ溺愛ルルーシュが書いてて楽しかったのが敗因だと思います。


あ、カボチャスープはお勧めです。ミキサーの掃除が苦じゃない方は、是非どうぞ!(笑)

一応、小さく解説。
ロロがルルーシュについてライに会わなかったのは、その間に機情に確認を取りに行っているからです。
ライの転入は機情の知らないことだったので、軽くパニック。たぶん、これだけ大がかりな作戦だと学園生徒全員の身元調査はしてるだろうし、なによりクラブハウスで生活って!作戦に支障をきたすだろう!と、ヴィレッタ先生あたりはお冠だと思います。


ランペルージ家の両親が健在ということになっているのは、イラストドラマを参照したためです。
この白ルルーシュの頃は難しいですね。記憶がどう改竄されているか、詳細が分からない;
とりあえず、スザクが幼馴染みということはないと踏んでるんですが……どうなんでしょう?(←8年前の日本とブリタニアの緊張状態で、普通の子どもが留学してくるとは思えない)
うーん、分からん。
分からんと言えば、ミレイさん。貴方のクラスはどこですか?同じ学年だけど、ルルーシュとはクラスが違うという認識でおk?
ああ!詳細なデータ集がないかなあ!。・゚・(ノД`)・゚・。

……なお、今回はweb拍手の小噺がありません。ごめんなさい。
でも、パチパチしていただけると、とても嬉しいです!

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