月曜日に間に合わなかった。orz
およそ1時間の遅刻です。すみません。
猫ライ第2話です。
特に何の事件も起こるわけではないほのぼのした話になりました。
猫ライはしばらくこんな感じになると思います。
今度はライ視点が書きたい……
例によって例の如く、拍手に後日談がアップしてあります。
気が向いたらパチパチしてやってください。
次は長編を……!
翌日は忙しかった。
休日だというのに早起きをして、朝一番に本屋に向かう。勿論、仔猫の飼育本を買うためだ。
アーサーは拾ったときにはすでに成猫だったため、それ程エサや環境に気をつかっていない。時々、ふらりと居なくなることすらあるアーサーは、まだ半ば通い猫のようですらあるから、なおさらだ。
だが、まだ仔猫のライは、そんな放任には耐えられないだろう。小さな身体は温度に敏感だし、食べ物もうまく消化できない可能性もある。
そんな不安定な命を預かるには、きちんとした情報が必要だ。インターネットである程度の情報は集めていたが、より正確なデータを手に入れるためにも、本の一冊は持っていた方がいいだろう。
最寄りの大型書店で、ペット本コーナーを探す。
普段はあまり行かない書棚を巡ると、何冊も猫の本があることが判明した。それなりに需要があるらしいと、少し驚きつつ、特に仔猫について書かれている本をチョイスする。
――それにしても、どうしてこんなにファンシーな表紙が多いのだろう?
レジで袋を断って、店を出た。
道すがら、本をパラパラとめくってみた。
カラーページでは、種類ごとに仔猫が紹介されている。有名な品種は流石に知っていたが、猫の種類が知らないものだった。
しかし、どの猫もライの特徴と合致することはない。あれだけ美しい猫なのに、雑種なのだろうか?
そんなことをつらつらと考えながら、ルルーシュは次の目的地へと向かっていた。
次はペットショップだ。
何しろ半ば衝動的に拾ったものだから、仔猫に必要な物が何も揃っていないのだ。頭の中で買うべきをリストアップしてから、店内に入った。
清潔感溢れる店内には、動物だけではなくペット用品が陳列してある。
犬猫は勿論、うさぎやハムスター、フェレットから熱帯魚まで揃っており、大きな店のようだ。
脳内メモの必要順位から揃えることにした。
まずは猫トイレとトイレ砂。それから、水入れとエサ入れ。後は移動用のキャリアーが必要になるだろう。さらに、猫用のベッド。簡易のものは作ったが、きちんと定位置をつくらなければならないらしい。
順調にそこまで選んだのだが、エサコーナーの前で固まってしまった。何しろ種類が多い。
袋入りに缶詰。ドライタイプとウェットタイプ。粉末の物まである。
見た目ではどれがいいのか判断が付かない。困り果てていると、見かねたのか女性店員が声をかけてくれた。これ幸いと、ライの大きさや状態を説明し、オススメのエサを選んで貰う。
ウェットタイプを三種、ドライタイプを一種類。ドライタイプが食べづらそうならふやかせばいいと教えられ、ルルーシュはにこやかに礼を述べた。
妙に顔が赤い店員に首を傾げながらも、店を出る。
荷物は嵩張るが重くない。一人で運ぶことはできたが、普段は使わない筋肉を使ったせいで、肩から二の腕にかけてがどんよりと重く感じられた。
こんなことなら配送を頼めば良かっただろうかと少しだけ後悔する。
ルルーシュは小さく息を吐いて、気合いを入れなおした。
ライの環境を整えておいて、午後からは生徒会に顔を出さなければならない。
そろそろかなりの量の仕事が滞っている頃だろう。企画立案ばかりするミレイだが、会長職にある以上、当然事務処理もできる。が、シャーリーやリヴァルの事務処理能力は平均的なものだから、溜まっているだろう量を捌ききるのは難しい。
生徒会の仕事が一段落したら、騎士団にも顔を出さなければならない。人的資源が乏しいので、様々なことをルルーシュ自身がこなさなければ、組織として瓦解してしまう。
詰め込まれている予定を脳内で確認し、分刻みでスケジュール調整をしたルルーシュは、自宅――クラブハウスの玄関扉を開けたとロコで、今日の予定を全て放棄しなければならないことを悟った。
「おっかえり~!ルルーシュ!」
満面の笑顔でルルーシュを出迎えたのは、ナナリーでも咲世子でもなく……ミレイだった。
――もう、ため息も出ない。
ダイニングルームにはいると、生徒会メンバーが揃っていた。
朝から非常識だとか、そんな言葉は通じないだろう。特にミレイには。
「どうしたんですか?全員揃って」
ぐるりとメンバーを見回しての台詞に、ミレイを除く全員が微苦笑を浮かべた。
「それが、会長に呼びつけられてさあ」
「朝からごめんね、ルル」
それほど深刻に悪いとは思っていない顔のリヴァルとシャーリー。
「やめた方がいいって、止めたんだけど……」
「ごめん、ルルーシュ」
悪いとは思っているが力不足だったニーナとスザク。
そして、ひとり「来たくて来た訳じゃない……」と呟いているカレン。
そんな状況でもルルーシュが怒鳴りつけたりしなかったのは、ナナリーがにこにこと嬉しそうに笑っていたからだ。
「朝から皆さんと一緒で、楽しいです」
心からの笑顔を浮かべるナナリーは本当に可愛らしい。その隣で、豪奢な金髪を揺らしながら笑うミレイさえ居なければ、ルルーシュはその愛らしさに心癒やされていたことだろう。
「さあ!紹介して貰うわよ!」
ミレイのハイテンションな要求に、ルルーシュは首をすくめた。目的語が一切ないのに、何を求めているか分かってしまう。つきあいの長さがなせる技だろう。
「連れてきますから、ちょっと待っててください」
荷物を降ろして、スザクに渡す。
当然のように渡されたスザクは苦笑を浮かべながら、咲世子にどこに置けばいいのか聞いている。咲世子も心得たもので、すぐさま案内する。とりあえずはキッチンに置くことになるだろう。
その様子を横目にルルーシュは自室に向かった。
自室のベッドにはC.C.がゆったりと横たわっている。だらしない姿にルルーシュが不機嫌になったことに気づいただろうに、悠然としたままのC.C.の足下には、銀色のふわふわとした塊があった。
その毛玉がライだ。
拾ったときは黒灰の雑巾のようにも見えたが、洗った後は、美しい銀色の毛並みが輝くように見える。
「ライ」
ルルーシュが呼ぶと、小さな背中がぴくりと動き、ライが顔を上げた。大きな青の瞳がまっすぐにルルーシュを見つめる。
「にぅ」
返事をするようにライが一声鳴いて、ベッドを飛び降りてルルーシュの足下までやってくる。
本当に賢い猫だ。
ちんまりとした身体を抱き上げて腕で包み込めば、肘のくぼみにすっぽりと収まってしまう。ほとんど見えなくなってしまった背中を指先で軽く撫でると、ライは小さく喉を鳴らした。
その様子に微かに笑みを浮かべたルルーシュは、しかし次の瞬間には氷点下の瞳でC.C.を見た。
「スザクたちが来てる。部屋から出るなよ」
「ふん」
鼻で返事をしたC.C.を睨みつけることしばし。
しかし、外を出歩くにしても、ルルーシュに近しい人間に見つからないように多少は気をつけているらしい。信じる気はさらさらないが、今回は大丈夫だろうと高をくくることにする。
「絶対だからな!」と念押しだけはして、踵を返した。早くしないと、遅いと言ってミレイ当たりが自室まで襲撃しかねない。
扉が閉まった後にC.C.が「ピザ5枚だな……」などと呟いたことは、当然ルルーシュの知るところではなかった。
ダイニングにとって返したルルーシュを待ち受けていたのは、好奇に満ちた目が4対。ほか2対はそれほど興味がなさそうだったが、それでもルルーシュに――より正しくは、ルルーシュの腕の中に注目していた。
まさかライをテーブルの上に乗せるわけにもいかないので、引き出した椅子の上に降ろしてやる。クッションの付いた座席に降ろされたライは、離れていくルルーシュの指先を見上げて「みぃ」と小さく鳴いた。
その途端だった。
「可愛いっ!」
シャーリーが感激のあまりに叫んだ。
その声に驚いたのはルルーシュもだったが、何よりもライが驚いた。びくりと身体が震えて、毛が逆立つ。尻尾も耳もぴんと立ち、威嚇態勢だ。
反射的に爪を出したらしく、クッションの布地がきりきりと小さな音を立てた。
ルルーシュはシャーリーの声よりも、ライが警戒心を顕わにしたことの方に驚いた。人慣れしていると思いこんでいたが、実はそうではないのかもしれない。
「シャーリー、あまり驚かせないでくれ」
「ご、ごめんなさい……つい」
身構えたままのライを指先であやしながら、ルルーシュが苦笑いする。
シャーリーが顔を真っ赤にして謝るのを見つめたライは、ふるりと身震いするよう、ようやく警戒を解いた。ルルーシュの指をひと舐めして、それからシャーリーに向かって「にぃ」と鳴く。
まるで「気にしないでいい」とでも言っているようで、シャーリーは顔を綻ばせた。
「うう、でも本当に可愛い……小さいし……とにかく可愛い」
「ちっさいんだなあ!生後どれくらい?」
可愛いと呟き続けるシャーリーの頭越しにライを見たリヴァルが、あまりの小ささに驚いた。確かに、両の掌にすっぽりと収まってしまう大きさで、動いていなければ小さなぬいぐるみのようにしか見えない。この大きさで生きているというのが不思議なほどだ。
「拾った猫なんだから、正確には分からない。でも、たぶん2ヶ月経つか経たないかぐらいだろう」
先ほど購入した本を拾い読みした限りで予測できる月年齢を告げれば、リヴァルは感心したように頷いた。
「2ヶ月でまだこんなちっこいんだ」
「いいよ、小さくて!可愛いもん!」
「……こんなに小さいと、うっかり踏んじゃいそう」
ぼそりと恐ろしいことを呟いたカレンの言葉は、幸いなことに誰にも聞こえなかったらしい。ニーナも興味深そうにライの大きな瞳を見つめている。
人間たちを見上げるのにも飽きたのか、ライがひらりと椅子から飛び降りる。きょろきょろと辺りを見回し、居心地のよさそうの場所を探している様子だ。
そのライの姿を異様なほどの熱心さで見つめていたミレイは、大きく一つ頷いて宣言した。
「よし!その仔には生徒会のマスコットキャラクターをやってもらうわよ!」
「……はあ?」
唐突な宣言にルルーシュは思わず怪訝な声を漏らした。ライまでもミレイを見つめて心なしか驚いたような顔をしている。
ミレイはどこかぽかんとした表情を浮かべた全員を見回して、満足そうに笑った。
「何ですか?ソレ」
リヴァルの至極もっともな質問に対して、ルルーシュは小さく肩をすくめた。聞かなくても何がしたいのか分かる――訳ではなく、聞くだけ無駄だと思っているのだ。
ミレイの提案は突拍子のない上に、深い意味などあるわけがない。
「そうねぇ、例えば、生徒会書類の認証印のかわりにこの仔の肉球スタンプとか!」
「却下!」
一刀両断したのは勿論ルルーシュだ。恨みがましそうな目で見られても動じない。
そこに頼もしさを見出したのか……ただ単に、ミレイの雰囲気を恐れただけなのか、ライがルルーシュの足下まで待避してくる。
「書類を汚されるのがオチです。第一、そんな真偽の判定がしにくく偽装しやすいんじゃあ、認証印の意味がありません。却下!」
「えぇ~!」
盛大にブーイングをするミレイを、ニーナが苦笑しながら慰める。「だって」とか「でもね」とか、未練を残した言葉が聞こえるが、ルルーシュは全て無視を決め込んだ。
どう考えても賛同できない。祭りなどのイベントならルルーシュが嫌でも誰かが楽しめるかもしれないが、今回の提案は誰も――ミレイ以外、得をしないではないか。
インクに良くない成分が含まれていて、ライが傷ついたらどうしてくれる。
するりと足首に懐いてきたライを抱き上げて、もういいでしょうとばかりに追い出そうとすると、些か緊張したような声が上がった。
スザクである。
「ルルーシュ!あの、お願いが、あるんだけど……」
「なんだ?改まって」
唇を引き結んで、翡翠の瞳に真剣な光を宿したスザクが、じっとルルーシュを見つめる。
じわりと背中に生暖かいものが這ったような気がした。
――まさか、ゼロのことがバレたのか?どこでだ?何もミスしていないはずだ。それに、このタイミングで言い出す理由が分からない。まさか言い逃れできないように?馬鹿な、この状況ならば冗談で済ませてしまえる可能性の方が高い。いや、もしそうなっても言い逃れるには34通りの……
無駄に高速回転を始めたルルーシュの頭脳は置いてきぼりで、スザクは拳を握りこんで決意を固める。真剣すぎて剣呑な光を宿し始めた瞳に、生徒会メンバーはごくりと息を呑んだ。
「あ、あの……!だから……えぇっと」
「――スザクさん、もしかして」
言いづらそうに口を開けたり閉めたりしているスザクを助けたのは、今まで楽しそうに全員のおしゃべりを聞いていたナナリーだった。スザクが言いたいことが理解できたかのように、にっこりと笑う。
「違っていたらごめんなさい。もしかして、ライさんに触りたいんじゃないですか?」
「!……すごい、ナナリー!どうして分かったんだい?」
「ふふ、だって前に猫さんに嫌われてしまうって悲しんでおられたでしょう?」
「――そ、そんなことか」
思わずがっくりと肩を落してしまったルルーシュを、誰が責めることができるだろうか。
安堵というより脱力してしまい、思わずため息が漏れる。
「触ろうが抱こうが好きにしたらいい」
「だ、だってすっごく小さいし……!」
「別に触ったからと言って傷ついたりしないだろう」
変な心配を始めるスザクに、ルルーシュは苦笑した。
本当に昔とは気の回し方が違う。けれども、弱いものに優しい考え方なのは変わっていないのが嬉しくて、くすぐったいような気分だった。
「それに……僕はどうしてか動物に嫌われやすいから。できれば、ルルーシュにこの仔を抱いていてもらって、横から僕が撫でるというのが理想なんだけど」
「あ、やっぱりスザク君でも引っかかれるのは嫌なんだ。アーサーには果敢に挑んでいくから、大丈夫なのかと思ってた」
シャーリーの無邪気な言葉に、スザクはふるふると首を振った。
「別に引っかかれるのが嫌なんじゃなくて……」
「嫌われてるって意思表示をされるのが嫌なんでしょ?」
ミレイの的を得た表現に、スザクは少しばかり情けない笑顔で頷いた。
ルルーシュとしては、どうしてそこまでして猫に触れたいのかが分かりかねる。嫌われているのなら、放っておけばいいと思うのだ。それは「構うな」という意思表示であり、こちらが折れてまで合わせてやる必要性をルルーシュは感じない。
ライを拾ったときだって、手を差し伸べてそれでも拒否されたら、多分何もしなかっただろう。
必要とされるのなら助けるのも吝かではないが、拒絶されればそれ以上の労力を払うことはしない。
理解のできない考えだが……だが、スザクの願いを叶えてやりたいと思うのも事実だ。
だから、ルルーシュはライを抱いたままスザクに近づこうとして――失敗した。
ライが柔らかく抱いていたルルーシュの腕から、ひょいと飛び降りたのだ。危ないと手を出そうとしたが、間に合わない。
いや、そもそも危なくなかった。
小さな身体の何倍もの高さから落ちたというのに、猫らしく危なげなく着地してみせる。
「小さくても猫ね」と感心する周りには目もくれず、ライは一直線にスザクに近づく。
逆にスザクが驚いて半歩退いた。
逃げたスザクを不思議そうに見上げたライは、スザクの足下でころりと横になった。身体を倒し、けれども頭だけは上げたまま「にぃ~」と鳴く。
その様子にルルーシュは小さく笑った。
「触ってもいいそうだぞ」
「え?これ、そういう意味かな?」
「たぶん、そうじゃないかな?」
「きっとそうですよ!ライさんはとっても賢いんです」
ライの行動を咲世子から伝えられたナナリーが自信を持って告げる。
スザクはまだ半信半疑といった様子だったが、それでも恐る恐る手を伸ばした。
ライは逃げない。引っかこうと脚を伸ばすこともしなかったし、噛みつこうと口を開けもしなかった。
スザクは小さな頭を指先で撫でる。一回、二回。
ゆっくりと撫でてやると、ライは目を細めて気持ちよさそうにした。
「――う、わぁ」
スザクが思わず感動の声をあげた。
「はじめて引っかかれなかった……」
「そんなに嫌われてんの?」
「ある意味才能じゃないかな?何だろう?猫が嫌いなフェロモンが出てるとか?」
スザクの呟きはリヴァルを感歎させ、ニーナの研究心をわずかに擽る。
ミレイはもはや涙さえ浮かべそうなスザクの様子に笑い、シャーリーは一緒にライを撫ではじめる。カレンも少しは興味を持ったのか、ライの様子を見つめていた。
ナナリーはやっぱり嬉しそうに微笑んでいる。
全員を見回したルルーシュも、笑みがこぼれる。
スケジュールが狂ってしまった午前中だったが、たまにはこんなことがあってもいいかと思う。
クラブハウスのダイニングに、笑顔と猫の声が溢れていた。
猫のいる生活02
(穏やかで、幸せな時間。中心にいたのは小さな仔猫)
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文章の書き方を忘れている気がします。
出張の報告書とかばっかり書いてたから、妙に言葉が堅い!でも直せない!。・゚・(ノД`)・゚・。
あとやっぱりライがいない(いや、いるんだけど……話さない)と、書きづらいです。
というか、ルルーシュが書きづらい。orz
ルルライ書きとしては致命的です。精進します!