しかもライ目線で書いてたのに、途中からルルーシュ目線になるし。
ダメダメでごめんなさい。
騎士団ED後で、行政特区日本成立後。
たぶん特区が成立していたら、ゼロは幹部ぐらいにならないと日本人側の不満その他を防ぎきれないと思うのです。だからゼロ(ルル)とライには仕事をしまくってもらっている……ということで、ひとつ。お願いします。
行政特区「日本」。
この前代未聞の「自治区」が成立して、およそ半年が過ぎた。
「とりあえずは順調、と評していいだろう」
特区の中央庁舎の高層階で、ゼロはそう言った。ライはその言葉にうなずきながらも、いくつかの書類をゼロに手渡す。
ブリタニア本国では「お優しい皇女の思いつき」という扱いしか受けていなかったこの特区が、実現し得たのは、ゼロを中心とした「黒の騎士団」の参加があったからである。
ユーフェミアが独自に、あるいはいくらかの専門家に協力を要請して作り上げた枠組みは、急ごしらえにしてはかなり上等なモノだった。
特区内での法律は日本のものを基礎とし、経済面では、農業地域・工業地域を設け、特区内雇用が可能にした。
しかし器がどれほど良くとも、中身が問題なのだ。
ユーフェミア自身には、日々の政を行うだけの知識を持っていない。
しかし、他の者が特区代表となるとすると、それがブリタニア人では反発が起こることは必至だ。かといって、日本人だからという理由で下手な人選をすれば、特区の理想そのものが瓦解してしまう。
ユーフェミアは当初、スザクを推したのだが、スザク本人がこれを固辞した。
誰を代表とするか、決め倦ねたままに式典に臨み、そして、黒の騎士団の参加を得たのである。
ユーフェミアは大いに喜び、代表をゼロに決めてしまった。
当然、ブリタニア側が反発したのだが、ユーフェミアは「特区内のことですから」と言って取り合わなかった。
さらに、特区に参加する日本人たちの大多数は諸手を挙げて「ゼロ代表」を歓迎する。
ブリタニア側との協議の結果、あまくまで代表はユーフェミアで、ゼロは日本側の代表補佐に任命されることとなった。
こうして、実質上ゼロは特区の最高幹部の一人になったのだ。
ゼロ本人はこうもうまくいくと考えていなかったようで、指名されたときはしばらく呆然としていた。
そのときの表情を思い出し、ライは小さく口の端を上げる。
「しかし、ユフィのやつ……働く気がないな」
ほとんど手つかずのまま降りてきた書類に、微苦笑したゼロは小さく肩をすくめて見せた。気障な仕草が様になっている。
だが、それは「ゼロ」というより「ルルーシュ」の仕草だ。
ゼロの格好でルルーシュを思わせる言動をすると、妙に幼く見える。
「それだけ信頼されている、ということだろう?」
「……だといいんだがな」
言いながらゼロは仮面を外した。
完全と言われるセキュリティに守られているこの部屋に、ゼロ――ルルーシュの許可なく入れる者は少ない。
特区代表のユーフェミア。もしくは、ゼロの右腕であるライ。ノーチェックで入れるのはゼロを除けば、この二人だけだ。
どちらもゼロの正体を知っているので、ルルーシュはこの執務室では気兼ねなく仮面を取ることができる。
ほっと息をついたルルーシュに、ライはお茶を煎れる。
ダージリンのストレート。完璧にルルーシュの好みに合わせた濃さと温度。少しずつ覚えたルルーシュの好みは、すでにライの指にまでインプットされていて、自動的に煎れることができる。
「お疲れ様」
「ライも、お疲れ様」
二人でこうして落ち着いてお茶が飲めるのも、久しぶりのことだ。
ライは湯気の向こうで、珍しくリラックスした表情をしているルルーシュを見つめながらそう思う。
今日までに、第三次募集分の日本人たちが特区に移り住んだ。
初期に起こりうるとゼロとライが予測した問題はほぼ解決できているから、今はまだ落ち着いているが、人口が増えるにつれ諸問題がそろそろ吹き出してくるだろう。
あと数日すれば、この平穏はなくなるな。
冷静にそう予想して、ライはすこし落ち込んだ。
仕事が嫌なわけではない。自分がみんなの――ルルーシュの役に立っていると分かるのは、とても嬉しい。やりがいもある。
ただ、こうしてゆっくりとお茶を飲むような……そんな穏やかな時間が減ってしまうのが哀しい。
毎日ルルーシュと、そしてできればナナリーも交えて、他愛もない話をしながらお茶を飲むのが、ライのささやかな夢なのだ。
実現させようとすればするほど、その小さな夢から遠ざかっているような気がする。
先のことを考えると、頭が痛くなるばかりだ。
それでも、最悪の事態だけは避けることができている。
――それに……
「どうした?」
紅茶の香りを楽しんでいたルルーシュが、驚いた表情をしている。何もないはずなので、ライは首をかしげた。
「別にどうもしないが……どうかしたのか?」
「聞いているのは俺なんだが……」
困ったような、むず痒そうな、不思議な表情でルルーシュが言う。ライはますます困惑した。
ライの内心を悟ったのだろう。ルルーシュは小さく笑って言い直した。
「じゃあ、言い方を変えよう。何を考えていたんだ?」
ティーカップをソーサーに戻しながらの質問に、ライは言葉を詰まらせた。
質問自体は何の問題もないのだが、ちょっとしたこと――それこそ、カップを置く動作だったり、落ちてきた前髪をかき上げる仕草が、ルルーシュにかかると、途端に気品と艶のある動きになる。
思わず見惚れてしまうほどの。
「――えぇっと、これから大変になるだろうな、とか」
「例えば?」
「そりゃあ、人口が劇的に増えたわけだから、いろいろ問題が出てくるだろう?特に医療・福祉面の制度はまだ完全にできあがっていない部分もあるし」
「そう言う意味か」
ルルーシュはおかしそうに笑う。何故笑われているのかライには理解できない。
楽しそうにしていてくれるのは嬉しいのだが、一方的に笑われるのは面白くはない。
「他には?」
くつくつと喉の奥を震わせながら、ルルーシュは問いかける。
こうした悠然とした態度が似合うのは、彼が皇族の血を引いているからだろうか?
だとしたら、ライ自身も似合うはずなのだが……
自分がルルーシュのように振る舞う姿を想像して、ライは首を振った。駄目だ。似合わない気がするし、上手く想像できない。
「他ね……そうだなあ、仕事は嫌いじゃないけど、穏やかな時間がもう少し欲しいな、とか」
「うん」
「いろいろ大変そうだけど、隣に君がいるならがんばれるだろうな、とか?」
そう言ったときの自分の表情を、ライは知らない。
はにかむような、幸せそうな笑み。
ルルーシュは内心で小さなため息をついた。全く自覚がないというのは問題だ。
生い立ちが特殊だからだろうか。
客観的に物事をとらえるのは非常に上手いくせに、自分のこととなるとまるで分かっていないらしい。
それはとても厄介なのだが……同時に、ライらしい。
ルルーシュは無言で、ライの向かいの席から隣に移動した。
「ルルーシュ?」
ライは怪訝そうな顔をした。その小さな呼びかけに、ルルーシュは笑みを浮かべるだけで答えない。
ライのすぐ横に腰掛けると、表情を変えることなくライの腕を取った。ライがカップを持つ手を腕ごと引き寄せて、薄く唇を開く。ゆっくりと、まるで見せつけるかのようにカップの縁に口付けた。
「――!」
ライが息をのむ。
その動揺が腕を通り、ルルーシュにも伝わってきたが無視をした。腕を持ち上げて、ライの手から紅茶を飲む。
こくり、こくりと静かに全てを飲み干した。
上目遣いにライを見ると、恥ずかしそうに目を伏せて、頬を紅く染めていた。
「……おかわりが、欲しいなら、言ってくれれば煎れ直したのに」
紅茶が欲しくてしたことではないと、分かっていながらそんなことを言う。
抵抗にならないほどの小さな抗いをするライを、ルルーシュは愛しそうに見つめた。
「じゃあ、おかわりをもらおうかな」
カップを持つライの指を舐めながら言うと、ライの体が小さく震えた。驚いたように見開いた目が、ゆっくりと弛んで笑む。
「ばか」
言葉の意味が分からなくなるほど甘い響きで罵って、ライは目を閉じた。
引き寄せられバランスを欠いた体から、力が抜けた。
ティーカップが毛足の長い絨毯に落ちる。それが、本格的な蜜事の開始合図だった。
To be continued.