拍手にてプッシュがあったので、
「騎士団ルート終わり直前、行政特区式典にてライが撃たれた時のゼロ(ルル)」です。
……ライがまだ撃たれていませんが(笑)
キリがいいので、ここまでで一度うpします。
ルルが多少ヘタレかもしれません。ごめんなさい。
――そのとき。
俺はあの夜のことを思い出していた。
あれは俺たちがお互いの秘密を明かし合い、受け入れた日から何日か経った夜のことだった。
互いの過去を知って以来、俺たちはわずかの時間も惜しんで語り合った。
過去のこと、今のこと、そして先にあるべき希望。
こうして話し聞くことは、自分を見つめ直し冷静にしてくれた。悲しみも怒りも絶望も、裡に抱え込んで混沌とそこにあり続けたモノが、少しずつ昇華されていくのが分かった。
決して忘れはしない。けれど、その重みに潰されては意味がない。
それが頭ではなく、心で理解できたのは彼――ライとこうして話すことができたからだった。
C.C.は俺たちを「まるで一対のようだな」などと笑ったが、本当にそうであればいいと思う。
俺たちは互いに背負っていた業を分け合った。ひとりでひとり分の業を抱えるのと、ふたりでふたり分の業を抱えるのではずいぶん違う。
単純に物理的に考えれば、1を1で支えるのも2を2で支えるのも同じ事だ。
でも、心情的には全く違う。
その証拠に、俺は確かに安心していたのだ。
ライがいるなら、全てうまくいくと思っていた。何も俺たちを傷つけることなど出来ないと、信じていた。
俺に足りないところは、ライが補ってくれる。
ライに欠けているところは、俺が支えればいい。
信頼という言葉を思い出させてくれた白銀の存在を、俺は大切にしようと、誓った。
そして、あの夜。
ライは酷く青白い顔で俺の部屋を訪れた。
焦点の合わない瞳は揺れていて、今にも泣き出しそうだった。
そんな様子のライを初めて見た俺は驚いて、とっさにライを抱きしめていた。
ナナリーにするように、そっと。
震える肩をさすり、背を緩やかに寝かしつけるように叩いた。
ライは涙こそ流していなかったが、泣いていたのだろうと思う。
声が震えていた。
頼りない、まるで迷子のような声で言うのだ。
「ルルーシュ、夢を見るんだ。紅い夢を」
それがライの過去に直結していることを、俺は知っていた。
言葉こそ婉曲だったが、何が起きたかは分かっていた。歴史的に見ても、有名な史実ではある。
「死は、ずっと身近だったのに……知ってるかい?ルルーシュ。僕の時代は今ほど医療が発達していなかったからね。だれにとっても死はとても近くにあることで、特別なことではなかったんだ」
言いながら顔を上げたライは、小さく微笑んですらいた。
けれど、指先が震えている。俺に知られまいと、きつく握った手からそれが伝わってしまっていた。
「戦場にも出ていた。自分の手で、剣で、人を殺めたこともある。今だって、KMFで……でも、そうじゃないんだ」
苦しげにライは言う。まるで絞り出すような声だった。
――言いたくない。
ライのそんな心の声が聞こえた気がして、俺は戸惑った。
言いたくないなら、言わなくてもいい。そう言いたかった。けれど、それをライが望んでいない。
「ひとの命を絶つとき、僕も覚悟している。でも、あのときはそうじゃなかった。ルルーシュ、僕は酷い人間なんだ。他人なら割り切れるのに……!」
縋るように伸された腕を取り、首に回させる。そして、今度は遠慮なく抱きしめた。
スザク並みに運動出来るくせに、かなり細い。俺の力でも折れてしまうのではないかと思うほどに。
そうしてライの顔が首筋に埋められた。柔らかい銀の髪が頬をくすぐる。
「僕の言葉で、大切なひとが死んでいく!僕が、殺してしまう!」
押し殺した声は間違いなく慟哭だった。
たぶん、記憶を取り戻してからずっと叫びたかった悲鳴だったのだろう。
俺に縋り泣くライを抱きしめながら、俺が抱いた感情に名をつけるのならば……それは「歓喜」だっただろう。
――ようやく、ライが俺に「弱さ」を見せてくれたこと。そして、ライを支えることが出来るという事実。
酷いのは俺の方だ。
泣いている大切な者を前に、喜んでいたなんて。
俺にも大切な人を失った経験がある。
だから、ライの気持ちがわかった。
それを乗り越えなければらないことも知っている。今ライは、ひとりでしか越えることの出来ない壁を登っているのだ。
――そう。
そう思っていた。
「同じ」だと。
俺が母上を失ったのと、ライが母と妹を失ったのは「同じ」だと……
そう思っていた、あの夜を――思い出していた。