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このブログは、9割以上が妄想で構成されています。アニメ・ゲームへの偏愛が主な成分です。
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大幅に遅刻してライ誕生日(仮)小噺です。お待たせして申し訳ありません…!

さて、本題に入る前に。
1日のおばか企画にお付き合い下さった皆様!本当にありがとうございました!
web拍手メッセージのお返事は後日改めていたしますが、無反応も覚悟していたので、拍手&メッセージを頂けて本当に嬉しいです!
今後もおばか企画は続けていくと思いますので、どうぞよろしくお願いします!

それでは本題!
ライ誕生日(仮)小噺です。
今回のライは犬っぽいです。どれだけルルの事が好きなんだ!というぐらいルル愛のライです。
プロット時点ではここまでルル愛じゃなかったのですが……どこをどう転んだんだろう?
乙女が多分に入っているライですが、それでもよろしければお楽しみください。

+ + + + + + + + + +




最近気づいたのだが、僕は読書が好きらしい。
らしいというのは、まだ僕が僕自身のことを正確に理解できていないからだ。

アッシュフォード学園でミレイさんとルルーシュに拾われてからだいぶ経つのに、僕の記憶はまだ戻る様子がない。
でも、僕はそれでもいいと思えるようになった。
今の僕はたくさんの人に支えられていて、今の僕が正しく「僕自身」であることに自信が持てるようになったからだ。
僕の周りにいるのは優しい人たちばかりで、僕はこのままでもいいのだと教えてくれた。だから、せめて彼らに恥じないように、僕は今の僕に出来ることをして、精一杯生きようと決めたのだ。

自分が分からない、記憶喪失の状態で、僕がここまで思い切りの良い決意が出来たのは、生徒会のみんながいたからだ。
――というと、少しばかり良心の呵責を覚える。
勿論、生徒会のみんながいなければ、僕はこんな風に気楽になることはできなかっただろう。記憶がない不安と、焦燥感。あのどうしようもない感覚は、今でも心の片隅に残っている。
でも、一番の僕の支えになったのは、他のどんな存在でもなく……

「ルルーシュ」

声に出しただけで切なくなる名前を持つ人。
ただこの人なのだ。

ルルーシュ・ランペルージ。僕の至上になったひと。
青い月の輝く夜に僕たちは誓いを交わした。共に歩むこと。どんなときでも互いを支え、喜びも悲しみも共有すること。
その誓いがあったからこそ、僕は過去と完全に決別することができたのだ。

僕から見れば、それは奇跡のような出来事だった。
だって、ルルーシュには大切な家族もいたし、仲間もいた。何も持たず、迷子のように彷徨っていた僕とは違う。確固たる自分があったのに、たくさんの人の中からそれでも僕を選んでくれたのだ。
嬉しかった。とても嬉しくて、嬉しくて――僕は絶対にこの人を裏切らないと、決めたのだ。

本当はもっと手助けをしたいと思っている。
ルルーシュの過去も決意も知っているからこそ、もっと役に立ちたいと思っているのだけれど、ルルーシュは僕が黒の騎士団に参加することをあまり快く思っていないようだ。
今でも、後方支援や作戦立案の補助はしているのだけれど、戦闘には絶対に出させてはくれない。以前、ラクシャータさんに乗せて貰ったシミュレータでは、まるで自分の手足のようにKMFを動かせたから、戦闘でも貢献できると思うのだけれど。

C.C.に言えば、「それは惚気か」と鼻で笑われる。
断じて違う。真面目に言っているのに、全く取り合ってもらえない。

とにかく、今は多少の不満を抱えながらも、少しでもルルーシュの役に立つべく様々な知識を身につけている最中なのだ。
その知識を身につけるという過程において有益なのは、読書だと思い勤しんでいる。が、これが結構面白い。

記憶のない僕にとって、「自分の知らないこと」は世の中に溢れている。一つ一つの知識を手に入れていくのは、純粋に楽しかった。
どうやら、僕にはコレクション趣味があるらしい。自分の頭の中で、疑問が解決して情報が埋まっていくのが一種の快感になっていた。
黙々と本を読んでいると、時間が経つのも忘れてしまう。
日が暮れても図書室に居座り続けて、ルルーシュが探しに来てくれたこともしばしばあった。迷惑をかけてしまったと恐縮する僕を見て、ルルーシュは気にするなと笑ってくれる。

「それほど夢中になれるのだから、読書が好きなんだろう」

彼にそう言われて、初めて自分の中で物事の好き嫌いの明確な判断が付くようになった。
僕は読書が好きらしい。過去の自分がどうかは分からないけれど、少なくとも今の僕は読書を楽しんでいる。

読書をより楽しむには、いくつかの条件が必要だ。
ひとつは、日当たりのいい暖かい場所。具体的には、図書室の出窓であったり、中庭のベンチだったり、風が強くない日なら屋上もいい。
もうひとつは、邪魔されない環境であること。
周りの音は気にならない質だけれど、話しかけられるのは駄目だ。どうしても聞かなくてはと思うから、集中できなくてイライラしてしまう。
つまり、集中できる状態でなければいけないのだ。

他にも、読書中は飲み物は飲みたくなるけど、食べ物を食べるのはどうも好きになれなかたり、長時間動かないからクッションが欲しかったりする。
こうして自分の内面を発見すると、案外我儘な一面が見えてきて驚く。実は僕はいいところの出自だったりするのだろうか……?

前置きが随分と長くなった。
要するに、僕が言いたいのは「読書が好きらしい自分としては、今のこの状況はとても不服だ」ということなのだ。

「分かったかい?ルルーシュ」
「お前が俺を好きでいてくれると言うことは理解した。とても嬉しいよ」

僕の説明にルルーシュは囁くように応えた。その吐息が耳元にかかり、思わず身体が震える。
……耳は拙い。本当に。
ルルーシュとの距離を取りたくて身体を揺すってみるものの、がっちりとホールドされているから解けそうになかった。

今のこの状況――つまり、本を読んでいる僕をルルーシュが後ろから羽交い締めにするように抱きしめて座り込んでいる状況ができあがったのは、今から1時間ほど前のこと。以来、何を言っても決して放そうとしないのだ。
力は強くないけれど、どこをどう押さえれば人が動けなくなるかよく知っているようで、ルルーシュの腕はしっかりと僕の腰に回り、身体を抱き込んでいた。
まるでシートベルト付きの座椅子に捕らわれたようで、立ち上がることも出来なければ、上半身さえも反転させることも出来ない。

この状態だと、ルルーシュの唇は僕の耳のすぐ傍にあることになる。
ささやかな呼吸だけでぴくりと反応する身体を持てあましているのに、ルルーシュはどうでもいいような事を話しかけてきたり、わざとため息をついたりするのだ。
僕はほとんど泣きそうになりながら、懇々と「どれだけこの状態が不本意か」という事を説いていたのに、ルルーシュの反応は僕の意図とは全く関係のない方向に飛んでいた。

「ルルーシュ……本当に、どうしたんだ?」
「どうもしない」
「そんなはずないだろう」

ルルーシュの顔を見ようと首を思い切り捻る。けれど、ルルーシュは嫌がるように顔の位置を変えてしまう。
僕は耳まで真っ赤になっている様子をつぶさに見られているだろうに、随分と卑怯だ。

だいたい、どうもしないはずはない。
いつもならこの時間は黒の騎士団に顔を出しているはずだ。それがなくても、生徒会の仕事があるだろう。
僕もずいぶんと生徒会の仕事は手伝えるようになってきたけれど、形式上、副会長であるルルーシュの裁決を待たなければならない書類がいくつかあったはずだ。

ルルーシュは責任感が強い。
確かに仕事をサボったりもするけれど、それは黒の騎士団を優先させた時か、そうでなければ誰かで代わりが利く時だ。それに帳尻を合わせるのはいつもルルーシュで、彼にしか裁けない仕事は疎かにしたりはしない。
ミレイさんがブツブツ言いながらもルルーシュの好きにさせているのは、最後にはルルーシュが自分でどうにかするだろうことを分かっているからだと思う。そうでなければ、あのバイタリティー溢れる人のことだから、椅子に縛り付けるぐらいのことはやりかねない。

そんなルルーシュが、常に忙しい黒の騎士団の活動も生徒会の書類も放り出しここにいるのは異様なのだ。
――勿論、嬉しくないと言ったら嘘になるのだけれど。
だけど、そんなことを素直に言えるほど僕は正直者ではない。

「本当に何でもないんだがな……そんなに俺がここにいるのは邪魔か?」
「読書の邪魔だよ」

でも、だからって憎まれ口が零れなくてもいいとも思う。
深く後悔したけれど、でも発せられた言葉が戻るわけもない。僕は自分の言葉に気まずくなって視線を落した。文面の一字だけを親の敵のように睨み付ける。
いつもはもう少し回転がいいはずの頭が、今は錆び付いた歯車のようにさっぱり動かない。

沈黙は多分ほんの数秒のことだった。けれど、僕にはとても長く感じられた。
妙に落ち着かない静寂を破ったのは、ルルーシュの小さな笑い声だった。

「なるほど。読書の邪魔にはなるが、お前の邪魔にはならないんだな」

嫌になるほど自信に満ちた声に言い切られ、絶句してしまった。
ルルーシュは僕の腰を抱いた右腕をそのままに、左手で僕の頬を撫でる。触れられた部分だけ、ルルーシュの体温が移って熱くなるのが分かるから、どうしようもなく恥ずかしい。

「なら、このままでもいいだろう?」

甘い声が耳朶に響く。その唇の動きすらも分かりそうな程近くで囁かれて、肌が粟立った。
背中を駆け抜けた軽い電流のような感覚を逃がすために、きつく目を瞑る。
ルルーシュが笑う振動が直接背中に響くのが、どうしても我慢できなくて僕は口を開いた。

「よくない!」
「どうして?」
「ど……どうしても!」

反論が浮かばず撃沈した。
どうして駄目なのか、わからないのだ。
嬉しいけど、切なくて、楽しいけれど、恥ずかしくて、傍にいたいのに、離れて欲しくて――罪悪感がある。

ルルーシュが僕の傍にいてくれるのはすごく嬉しい。でも、ルルーシュにはやらなくてはいけないことがたくさんあって、僕の傍にばかりいるわけにはいかないのだ。
ゼロとしての活動、ルルーシュ・ランペルージとしての学生生活を両立させ、さらにナナリーの兄として家族も大切に思っている。今でさえ、睡眠時間をかなり削っている状態だということを僕は知っている。
知っているから、ルルーシュに負担をかけることはしたくない。

「ルルーシュ」
「なんだ?」

ルルーシュの声は穏やかだ。

「仕事はしなくていいのか?」
「騎士団のことなら大丈夫だ。きちんと手はずを済ませてきた。生徒会のこともちゃんと手回ししてあるよ」
「……昨日、遅くなったのはそのせい?」

昨日、というか既に「今日」の時間帯にしかルルーシュが帰宅しなかったことを僕はちゃんと知っている。
帰ってこない兄を心配するナナリーを慰め、寝かしつけて、僕は一人で待っていたのだ。
結局、僕が起きている間にルルーシュは帰ってこなかった。寝入ってしまったのは多分三時ぐらいだから、ルルーシュが帰ってきたのはそれ以降だ。

「そうでもない」
「嘘だ」
「ライ――」

何か言いたそうなルルーシュの気配には気づかないふりをして、僕はそのまま言葉を続ける。

「ルルーシュが今日はオフだということは分かった。でも、そうならちゃんと休まなくては駄目だ」
「休んでいるよ。何もしていないだろう」
「そうじゃない。そうじゃなくて、ちゃんとソファとかベッドとか、身体を休めないと駄目だ。眠る気にならないというなら僕がお茶を煎れてくるから」
「それでは意味がない」

意味?
ルルーシュの言葉の意味を量りかねて、僕は首を傾げた。振り返ろうとするけれど、やはりルルーシュに邪魔をされる。
僕はため息をついた。どうして上手くいかないのだろう。
ルルーシュの役に立ちたい。ルルーシュの邪魔をしたくない。そう思っているだけなのに、ルルーシュの役に立つことはルルーシュに止められて、ルルーシュの邪魔をしないことだってルルーシュに邪魔をされている。

もう読書どころではなくなって、とうとう本を閉じた。すると、ルルーシュが首を傾げたらしい。
さらさらの髪が僕の頬を撫でてくすぐったい。

「読書はいいのか?」
「そんな気分じゃなくなった」
「そうか」

頷いたルルーシュはするりと腕を解いた。あっけないほ解放だった。
僕は急に寒くなった背に吃驚して振り向いたけれど、ルルーシュは至って普通の表情で――僕と目が合うとにこりと笑った。

「じゃあ、お茶でもするか?」
「……それはさっき僕が提案したんだけど」
「あれはお前がお茶を煎れると言ったんだろう?そうじゃなくて、俺が煎れてくるよ。待ってろ」

言い置いてさっさと歩き出してしまう。
僕は一瞬呆けてしまって、それからすぐに我に返った。慌ててルルーシュを追う。

「待って、ルルーシュ」
「ん?」

振り返ったルルーシュはそれでも足を止めない。小走りに近づいて、並ぶとルルーシュは小さく苦笑した。

「待ってろと言っただろう?」
「お茶を煎れるなら僕が煎れる。だから、君の方が待って――」
「いいから」
「でも」

自分が煎れると互いに言い張っている間に、キッチンに着いてしまった。
ルルーシュは少しだけ面白くなさそうに鼻を鳴らした。それでもそれ以上の口論は無駄だと思ったのだろう、さっさと動いて棚からカップなどを出し始める。
。キッチンでのルルーシュは妙に機敏だ。

「ほら。俺がやるから、お前は大人しくしてろ」
「……でも」
「さっきから"でも"ばっかだな」

ルルーシュは軽やかに笑う。
珍しいくらい穏やかな雰囲気に、僕は少しだけほっとした。ルルーシュはポーかフェイスが得意で、どんなに大変なときでも平気な顔をしてしまう。でも、そんなときはやっぱり少し空気がぴりぴりするのだ。こんなふうに穏やかなときは、少なくともルルーシュの心は大丈夫なときだ。

「アールグレイにしようか」
「え?あ、うん」

思わず呆けた返事をしてしまう。珍しい。ルルーシュが好きなのはダージリンだ。
別にアールグレイが嫌いなわけではないのだろうけれど、誰かにリクエストされたわけでもないのに他のお茶を煎れるのは稀だった。

流れるように無駄のない動きで紅茶が煎れられていく。
それをキッチンの入り口で見つめながら、僕はぼんやりと考えていた。
やっぱりどう考えても今日のルルーシュの言動はおかしい。
普段はこんなに時間がない人だ。いくつもの事を同時に考えていて、それでも追いつかないほどに今のルルーシュには時間が足りない。
そのルルーシュから、黒の騎士団の話も学園の話も出ないのは不自然だ。ただ、傍にいるだけなんて。

疲れているのかと思えばそうではないと言う。では、何かあるのかと言えば何でもないと言う。
何が何だかさっぱり分からない。

なにか、僕が察していない問題が起きたんだろうか?
僕はまたルルーシュの役に立てないのかと思うと、ずっしりと胸が重くなった。
お互いを支えあうと誓ったのに、僕ばかりが支えられている。そんな状況を打開したいのに、僕はいつまで経っても変われない。

……だんだん落ち込んできた。
ルルーシュが振り返り、テーブルに呼ぶのにも生返事を返してしまう。

「どうかしたのか?」

心配そうに覗き込まれて、思わず視線を逸らしてしまった。
言えるわけがない。「君の役に立てない自分に自己嫌悪している」なんて。

「どうもしないよ」

無理矢理に笑った顔は、やはり不自然だったのだろう。ルルーシュは眉を顰めて、手を伸ばした。僕の額に触れた指先は暖かい。
「熱はないようだが……」なんて真面目な顔でいうものだから、僕は苦笑してしまった。

「大丈夫だよ。何でもない」
「何でもない奴がそんな顔するわけがないだろう」

自分ではどんな顔をしているのかよく分からない。
そう思っているとルルーシュは僕の思考を読んだかのように、付け加えた。

「泣きそうだ」

目元を優しく指先で撫でられる。
そうしているルルーシュの方こそ痛そうな顔をしていると思う。そんな表情をさせてしまったのが僕だと思うと、とても申し訳なくなる。
それなのに、少し嬉しく思うのだ。なんて度し難い。

「そんな顔をさせたかった訳じゃないだがな……」

小さくため息をついたルルーシュは、苦笑いをしながらも慣れた手つきでティーカップにお茶を注ぐ。ふんわりと紅茶の香りが広がった。
いつもとは違うアールグレイ、お茶請けにはグリーンティーのクッキー。
テーブルに用意されたその向こうで、ルルーシュは眉尻を下げたまま言う。

「好きだろう?アールグレイも抹茶のクッキーも」

多分僕はぽかんとした顔をしているだろう。それくらいルルーシュの言葉は意外だった。
僕には記憶が無く、極限られた範囲のことしか経験値がない。だから、何が好きで何が嫌いかなど自分でも分からない。
ただ、その限られている経験の中から模索するに、僕は紅茶もクッキーも好きなのだと思う。特に、今目の前にあるものが。
でもそれをルルーシュに言ったことはない。
ルルーシュとお茶をするときは、ルルーシュの好きなダージリンを煎れていた。僕はそれで構わなかったし、ルルーシュが喜んでくれるならそれで十分満足だったからだ。

「今日はお前に何もさせないつもりだったんだ」

ぼんやりとしたままの頭にルルーシュの言葉だけが入ってくる。
それでも、音は認識できるけど意味を理解できるまでに少し時間が掛かった。

「お前はいつも俺ばかり優先させるだろう?たまには我儘を言って貰いたいと思ったんだが……絶対言わないことも分かってたからな。勝手に甘やかすことにしたんだ」

上手くいかなかったようだけど。少しだけ残念そうに笑ったルルーシュの顔を、僕はまだ呆然として見つめていた。
瞬きを数回繰り返すと、ようやくルルーシュの言葉の意味が頭に入ってくる。理解し始めるのと同時に、じわじわと熱が顔に集中し始めた。
恥ずかしい。照れくさい。ああ、でも涙が出るほど嬉しいのは本当で。

真っ赤になって俯いてしまった僕をどう思ったか、ルルーシュが手を伸ばして髪を梳いてくれる。
優しい仕草は僕の頬の熱を冷ますものではない。それどころかもっと熱くなってしまうのに、止めて欲しいとは終ぞ思えなかった。

「今日がどんな日か分かってるか?」

無言のまま首を振れば、ルルーシュは「だろうと思ったよ」と呟いた。

「人のことはとても気がつくのに、自分のことにはからっきしだからな」

ルルーシュに言われたくはない、と思ったけれど口には出さなかった。
それはルルーシュにもナナリーにも――ミレイさんはじめ生徒会メンバーには、何度となく言われている言葉だったからだ。
もう少し自分を大事にすればいいと、優しい人たちが言うのだ。僕は僕自身に何の意味も意義も見いだせないけれど、でも、優しい彼らが僕を心配してくれるのなら、自分のことも守ろうとは思う。けれど、どうやらそれだけでは足りないらしい。

「――今日はお前がここに来た日だよ」

内緒話でもするかのように小さな声で囁いたルルーシュは、僕と同じくらいに真っ赤になっていた。
今日は驚かされてばかりだ。
僕がここに来た日を覚えていてくれたことにも驚いたし、その日を大切にしてくれていたことにも驚いた。
疲れているだろうに、僕のために色々気遣ってくれていたのだ。

「ありがとう」

思考するよりも早く、感情だけで口が動いてた。嬉しいと伝えたくて、繰り返す。

「ありがとう、ルルーシュ」
「……ああ」

こくりとひとつ頷いたルルーシュは、視線を彷徨わせながらアールグレイに口をつける。どれだけ視線を外しても首まで紅くなっているから無駄なのに。
僕は小さく笑った。そうすると、今まで心の隅の方で凝っていた何かが綺麗に無くなっていく。
ああ、本当に。ルルーシュはすごい。

僕もルルーシュに習って紅茶を一口飲む。口の中に芳醇な香りが広がり、僕は目を細めた。

「うまいか?」
「うん、美味しい」
「そうか……よかった。もっと他には何か無いのか?」
「なにか?」
「今日はお前が我儘を言う日だから」

どんな理屈か分からなくて首を傾げる。
僕が疑問を明確に口にするよりも早く、察したルルーシュが笑う。

「今日はお前の誕生日みたいな物だから。お前がここに来てくれてありがとう、という日だろう?」
「……そういうものかい?」
「そういうものだ」

自信たっぷりに言い切られて、僕は戸惑いながらも頷いた。そうすれば、ルルーシュが嬉しそうに笑う。僕も何だか嬉しくなって微笑んだ。
二人で微笑みあえば、心がほんわりと暖かくなる。
幸せだと思いながら僕はルルーシュの話に耳を傾けた。さて、どんな我儘を言ってみようかと思いながら。




ぼくのたからもの
 (君の笑顔、穏やかな時間。それだけあれば、僕は強くなれるよ)


********************

乙女ライでお送りしました。
……ルルも乙女化しているような気がしますが、気のせいですよ!(笑)

個人的に青月編のライはもう少し男前でいいと思っているのですが、唯一記憶を取り戻さないルートということで……これくらい弱気でもいい気がしてきた今日この頃です。
不安で不安定で自分を卑下しながらも、相手を思いやるライ。いい子だなあ(笑)
ただし、自己否定をしすぎると鬱陶しいのでさじ加減が難しいですね。このくらいなら大丈夫でしょうか?

私の書くライはどこかしら自己否定要素があるのですが……
今まで比較的自信満々な受しか書いていなかったので、ちょっと難しいです。
(どちらかといえば、攻側が自己否定しているようなCPばっかだった)

いまだ暗中模索しておりますが、これからもライとルルに精一杯愛情を傾けつつ小噺を書いていきたいと思います!

あと、例によって例の如く後日談をweb拍手にうpしてあります。
ぜひパチパチしてやってください!
 

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